LOGIN希樹から見せてもらった写真は9月中に撮られたものだったが。
おそらく涼に対する何らかの不信感を希樹が感じたのが7月に入って 間もなくのことだったらしいが、もしかすると──涼と愛結の付き合いはもっと前からだったのではないだろうか!
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俺は今、出張も頻繁にあり忙しくしていて、平日仕事を終えてから
愛結と会うことはかなり難しい状況だ。 そんな中でも、土・日のどちらかには必ず会うようにしている。昨年の秋に、式場を押さえにふたりで行ってきた。
あと、細々《こまごま》したことで式場に足を延ばさなきゃいけないが、
俺たちは今年の挙式に向けていろいろ動いているカップルなのだ。なのに、俺の親友とキスしてんですかっ、ハッ!
涼と希樹だって、俺たちより半年以上も長い婚約期間を経てこちらも 俺たち同様、年内には結婚が決まっいてるはず。こういう状況でよくまぁやってくれたわ、ほんと。
胸糞の悪い。件の写真の日付は平日のモノだった。
涼は俺と同じように会社員だがちょっと事情が違う。親父さんの会社に縁故入社。
ヤツの兄貴がゆくゆくは会社を継ぐらしいが、ヤツだって専務
くらいにはなるだろうし、株だって幾らか保有するだろう。 入社した時からただのリーマンの俺とは違い、優遇されていて、 残業もあってないようなもの。ほぼ18時には退社でき、そのあとは深夜まで優雅な独身貴族らしいから
好きな時に愛結の都合さえつけば、いくらでも会えるのだろう。家だって俺の家からより、涼の家からのほうが愛結の家には若干近い。
希樹を差し置いて愛結とのデートとはおそれ入るねぇ~、全く。この時の俺はまだ、何の結論も出せずにいた。
ただじっとしているだけじゃあ埒が明かねぇ~。ここは自分の目でふたりの現場を押さえてやろうじゃないかと、そう
目論んだ。 ふたりがいるところを…… 仲良くしているところを…… 見たその時、自ずと自分の中で何らかの結論が出るだろうと思っている。 どうしようか迷ったが、ふたりの浮気現場押さえの旅に 希樹もご招待することにした。『厳しい現実、でもちゃんと直視しないとな』
誰にともなく言葉にしてみたが──
今回のことは、相当自分の心にでっかい棘となり、深くずっしりと刺さった。今でもこんなに痛みを感じるのに、実際現実を間の当たりにしたら、自分は
どうなってしまうだろう。興奮して殴りかかる?
以外に冷静に対応する?1対1なら自分を抑える自信がないけれど、まぁ4人でなら少しは
抑えられるだろ。そう結論付けて、その夜はチクリとした胸の痛みに耐えながら
眠りについた。 夢の世界に入る直前、可哀想な希樹のことを想った。 『希樹……おやすみ』それとね、もうひとつ予想外のことが起きた。 息子の陸のこと。 私は二輝のことを深く愛するようになり、そして陸との暮らしの中でいつの間にか陸のことも、気がついたら深く愛するようになってたの。 あなたの子でもある陸を、こんなにも愛することができる日がこようとは、ほんとに予想外だったわ。 私ね愛結、家に強盗が押し入って来て陸を刃物で刺そうとしたら代わりに死ねる。 うんっ、陸のためなら死ねる」「何勝手なこと言ってんの? 私の息子を奪っておいて酷い人。 悪魔……鬼ぃ……鬼畜。 あなたなんて……希樹なんて……私の友達じゃあないよ、人でなし」「その言葉、あなたに全部返すわぁ~。 最初に私や二輝に酷い仕打ちをしたのはあなたじゃないの、愛結。 あなたにだけはそんなこと言われる筋合いはないはずよ。 この際だから、あの頃言えなかったことをっていうか──今だから言えることもあるか。 まっどっちでもいいや。 はっきり言っとく。 二輝が、どんなにキズついたか知らないでしょ。 私たちが結婚してたことで、少しはつらさをわかってもらえたらとしたら、本望だわ。 当て付けのような結婚に見えるかもしれないけど、私は心から二輝を愛してる。 彼は良い人だよ。 二輝ほど誠実で妻や子供を大切にする男性はいないわ。 そう思えるほどこの10数年間、私も子供たちも大切にしてもらってきたわ。 涼とは正反対。 あなたもあんな不誠実な男と遊びで浮気したのが、運のツキだったのよ。 あいつね、私と結婚してからも別の女と浮気してたの。 なのにバレたあと、私とは離婚したくないってごねたの。 あきれるわぁ~。 その時の涼は、愛結との間の浮気は未遂のままだったと、まだ私が鵜呑みにしていると思ってたんだろうけど。 私もあんたとの浮気を知っていることは、結局その時もそれ以降も涼には言ってないんだけどね。 だからね、別の女との浮気を『初めての浮気だから見逃してほしい、心を入れ替えるから許してほしい』って彼、私に言ったの。 頭おかしいし、馬鹿にしてるわよね、私のことを。 まぁ、涼はそんな調子だったんだけど、相手の女の突撃が、すごかったのよぉ~。 とにかく、子供ができたから私に涼と別れてくれってうるさいのなんのって。 涼は逃げまくってたけど。 とう
「どう? 友達に自分の彼を盗られた気持ち、少しはわかった? まぁ、私は別に寝盗ったりはしてないけどさ。 お互いシングル同士でちゃんと結婚前提のお付き合いをして、 真っ当な手順を踏んで結婚したのだし。 あなたの元彼ではあるけど。 あんたはれっきとした私の婚約者と浮気したんだものね。 そんなあんたにとやかく文句つけられる筋合いはないと思うけど。 ゲスなことしたあんたなんかに。 私、あなたと涼の浮気を知ってあんたたち2人を呪ったわ。 そして絶対あなたと涼に復讐してやるって誓った。 そこで復讐の手始めとして二輝に陸の親権を取れるようレクチャーしたの あ・た・し・が。 小さい子はダントツ無条件に母親に親権がいっちゃうの。 愛結、知らなかったでしょ? だから、簡単だったわぁ~。 上手くあなたを言い含めて働きに行かせ、その間二輝は実家の両親や妹さんに 手伝ってもらいながら、乳児でもちゃんと育ててるっていう実績を作ったの。 重ねて言うけどこれ提案したの私。あははっ! それでね、あの時二輝に提案したことがもう1つあったのよ。 愛結をぎゃふんって言わせるために、私たち結婚しない? って。 そもそも私って自分に自信がなくてチキンだから、怒りからの勢いで二輝に そんな提案したけれど──そうは言いつつも腰は引けてたし、そもそも二輝がそんな復讐のために 私と結婚するなんて思ってもなくて。 モノの弾みの言葉として、言葉だけで私の提案は終わると思ってたし。 二輝も私の提案が、ただの復讐心からのものってわかってたはず。 だけどね、二輝はやさしい人なんだ。 復讐のことはさて置き、私とのことは真剣に考えたいって言ってくれたの。 誠実な二輝の申し出は、涼やあんたに散々人間不信に陥らされていた私には 一筋のオアシスだった。 誠
何がどうなっているのか……。 混乱の中にいた私は──陸が、いかに希樹が自分を大切に育ててくれたかを説明してくれても、 心は感謝の気持ちへとは動かなかった。 それが希樹でなければ御礼のひとつも言いたいところだが、 希樹なら事情が違ってくる。 いくら我が子を大切に育ててくれたとしても、到底礼など言えるはずもない。 今後あるかどうかもわからない陸と、ふたりきりの親子のひとときだったのに、 二輝と希樹の結婚を知ってしまい、心は散り散りに乱れ、ひとときの語らいなど 木っ端微塵に吹っ飛んでしまった。 この時私は希樹のことを、ことごとく私の幸せを奪っていく敵と認定した。 今まで奪われていた息子陸との親子の大切な時間を取り戻すべく、息子の心に 寄り添っていきたいと思っていたけれど──今知った事実の衝撃があまりにすごすぎて、いろいろ心づもりしていた思惑など これまた木っ端微塵に吹っ飛んでしまった。 どんなにか待ち侘びたかしれない息子とのかけがえのない時間さえも、 彼らに奪われたような気持ちになった。 漸《ようよ》う陸との面会時間を終えた私は、立ち向かうべく居間で 待っている二輝と希樹の元へ行き、詰め寄った。 「どういうこと? 何の悪趣味な冗談なの? どういうことなのよ!」 ◇ ◇ ◇ ◇ 陸との再会のあと、案の定愛結が血相を変えて私たちの所へやって来た。 二輝が察して陸を他の部屋へ連れて出た。『どういうこと?』ですって。 望むところだ。 積年の言うに言われぬ思いはこちらにだってあるのだから。 最初で最後になるだろうこの機会に、私も思いの丈をぶつけてやる。 「驚いた? ふふっ。 私と二輝はね、陸が10か月で二輝に引き取られた頃
父と私との様子を固唾を呑み、側で見ていた陸。 りっぱに大きくなった息子が…… 希樹のことを大切に想っている陸が……終始困り顔で「また、会いに来ます」と言って部屋を後にした。 私の身勝手な行為までも知ってしまった陸が、本当にまた会いに来て くれるのだろうか。 生後1か月しか育てていない我が子が、もう高校生になっていた。 息子の後ろ姿を見送りながら、私は産まれたばかりの息子のことを 思い出していた。 私の想いはまだあの産後の病室と一か月だけ一緒に過ごしたこの家に あるのかもしれない。 ハイハイする息子 つかまり立ちする息子 ヨチヨチ歩きする息子 『おかあさん、あのね……』と話しかけてくる息子 運動会で活躍する息子 受験する息子 何も……なにも。 私は何一つそんな息子の姿を見ていない、知らない。 付き合っていた頃、私だって二輝にすごく大切にされていた。 なのに今は私の隣にいなくなってしまった二輝。 いつだって私の隣には二輝がいた。 大切にしてくれた彼を裏切った自分。 涼との火遊びに、何の罪悪感も感じてなかった自分。 心のどこかで、万が一見つかってもやさしい二輝なら許して くれると思ってた。 随分と舐めてたんだ。 上手くキスだけだと、騙せたと── 誤魔化したことに罪悪感も感じずにいた愚かな自分。 人には許せることと許せないことがあって、していいことといけないことの 分別もつかない馬鹿だった自分。 二輝の子を産めば子供と暮らせると何の疑いも持たず、暢気に考えていた 愚かな自分。 あの時の苦労知らずで世間知らずの私に戻
僕は話し始めた。 「僕がまだ赤ん坊だった頃の話をさせてください。 これは後年ビデオを見て知ったことなんですけどね。 それは日本に帰ってきた時のものでした。 伯母がその時の様子をたまたま買ったばかりのビデオで 撮ってくれてたんです。 風邪をひいて酷い鼻詰まりをして、ヒューヒュー声をあげていた僕の側に 母が来ていきなり口で僕の洟汁を吸い出していました。 それを撮りながら見ていた伯母は、吃驚したのか『いやぁ~、えーっえーっ』 とかって、興奮しながら撮影してました。 母さんは僕の鼻が通るまで洟汁をチュウチュウ吸ってくれてて、 そのあと伯母が今度は父を映してました。泣いてる父の姿を……。 僕は今回両親とあなたとの確執を知るまで、父のあの時の涙の本当の意味を 知らずにいたんですよね。 ただのなさぬ仲ではなくて、随分といろいろ事情を孕んだ息子の洟汁を、 母が吸ってまで僕を楽にさせようと頬張っている姿に、感動して流した涙 だったっていうことでしょうか! 僕は大切に大切に育まれてきました。 だからもう母さんを恨んだりするのは止めてください。 お願いします」「あなたを産んだのは私なのよ? 希樹じゃない、私なのよ」 いつから聞いていたのか気がつくと側にいた愛結の父親が、 娘を窘めた。 「愛結、見苦しい真似はもう止めなさい。 彼らは何も悪いことはしてない。 彼らはお互い独身同士で結婚したのだし、陸のことも良い子にりっぱに── 大事に育ててくれたんじゃないか。 お前に陸を育てる資格なんか、二輝くんに結婚を拒絶された時から なかったんだよ。 あの時、私も母さんもお前にそう言って言い聞かせたろ? そしてお前も最後には納得して二輝くんに陸を託したのだから。 厳しいことを言うようだが、産むだけなら犬畜生でもできるんだよ」 「お父さん。そんな、あんまり……あんまりだわ」 愛結は、息子に関すること全てが理不尽と思え、嗚咽を堪《こら》えることが できなかった。
「今日はお義母さんはどうしたの? お父さんからは一緒に連れて来ると聞いていたんだけど……。 それにしても、どうして希樹が一緒にいるのかしら?」「お・か・あ・さん……。 僕の母をご存知なんですか?」 「何言ってるの? だから、どうして今日来てな……いの……。 えっ、あなたが言ってるお義母さんってまさかそんな 希樹じゃないわよね?」「母です。一緒に3人で来ました」 「どっ、どうして希樹があなたの……? 二輝は希樹と結婚してたってこと? 嘘よそんなことがあるはずない。 そんな……。 希樹は私の親友で、涼と結婚していたはずよ? なんでなんで? あなたたちの家族に納まってるわけ?」「母さんはあなたと友達だったんですか?」 「そうよ。私が涼と付き合うようになるまではね」 「涼さんって?」 「希樹の旦那!」 僕は心底驚いた。 僕の産みの母親は、自分の親友の婚約者を寝取っていたという話は両親から 聞いて知っていたけれど、その親友っていうのが母さん《希樹》のことだった だなんて……。 最悪じゃないか。 僕は自分の婚約者を誘惑していた親友の子だというのに、母さんは 僕を育ててきたって? 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。 まさにそれを地でいく自分の境遇に驚愕するばかりだ。 目の前のおかあさんは僕の母と父が結婚していたことに驚きすぎて、 僕との面会にも身が入らないくらいうろたえている。 このあと、目の前にいるおかあさんにどう振舞えばいいのか。